【第4話】そして人生はつづく
飛行機内で沸き起こった拍手喝采と満面の笑み
日本へ行く飛行機の中では不安と心配が技能実習生の心を支配していた。しかし、インドネシアへ帰国する帰りの飛行機では、皆不安もなく、安堵した顔でそれぞれの3年間を思い返しながら飛行機のシートにもたれていた。
「シートにもたれる同じ技能実習生の色んな人の色んな顔を見て、ああ、色んなドラマがあったんだろうなって。でもみんなに共通してたのは、誰の顔にも『やり遂げた』という達成感があったんです」
技能実習生たちを乗せた飛行機がインドネシアに無事着陸すると、技能実習生たちの客席からは拍手がわき起こった。もちろんアリフさんもその中で満面の笑みを浮かべて手を叩いていた。
3年間の日本での生活を終え、インドネシアに帰国したのは2008年秋。
「初めて日本へ行った日と同じく、この帰国した日のことも、忘れることはできません」
帰国の際にはジャカルタまで家族が出迎えてくれた。ジャカルタから故郷までの車の中、3年間のあれやこれやを無我夢中で話すアリフさんがそこにはいた。
「何よりも嬉しかったんです。家族に会えて、とにかく嬉しかったんです」
そして人生はつづく
どうして日本での3年間を頑張れましたか?
「ひとつは、せっかく日本に来たのだから、今ここで頑張らないとダメ、という気持ちがありました。色々な経験もできるのだから、とにかく頑張ろうと日々自分に言い聞かせていました。僕が3年間日本で頑張れば、きっと家族も喜んでくれると思ったんです」
「もうひとつは、お金です。現実的な問題ですが、帰国のときに少しでも多くのお金を持って帰りたかった。3年も日本で働いて、少ししかお金を持って帰れなかったら、家族に申し訳ないじゃないですか。でもまあ、お金に限らず、成長した自分をインドネシアに、家族に、そして未来の自分に持って帰りたかったですね」
リターンカルチャーショック
「日本からインドネシアに帰国して数日間は、どうしてインドネシアはこんなに臭いんだろうと思いました。ゴミが本当に多いし、どこに行っても人で溢れているんです。でもね、ここが僕の故郷。それを忘れるようなら、日本に行った意味なんてないんだと思う」
今後の予定は?
「今後の具体的な目標は、日本の文部科学省の試験に合格して日本へ留学したいと思っています。今の自分にはまだ満足していないので、日本語に限らず、もっともっと多くのことを学びたい。将来的な目標は、教師になることが昔からの夢なんです。僕は教えるのが好きだから、そういう仕事をしたい。エンジニアとして機械と向き合う仕事よりも、人と人との関係によって成り立つ仕事の方がやっぱり僕には合っていると思うんです」
将来どんな人間になりたいですか?
「色々な意味で成功した人間になりたいです。それは目に見えることだけではなく、精神的にも満たされた人間になりたいという意味です。もちろんお金はたくさんあればあるにこしたことはないとは思いますけど、それが一番じゃありません」
「何よりも僕の人生で大切なのは、自分の頭と心。そしてイスラームの教えにもある人間関係が大切だと思うんです。やっぱり宗教の影響が大きいと思います。お金をたくさん持っていても、周りの人とうまくやれない人には絶対になりたくない。だから、自分だけではなく、他の人のことも考えられる人間になりたいです」
完
<まとめ>
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