俺が日本語学校の採用面接で模擬授業をしたときの話

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コピー機の営業で日本語学校を訪問し、そこでロシア爆乳美女にウインクされて、日本語教師になることを即決した俺は、3週間の猛勉強で奇跡的に日本語教育能力検定試験に合格した

晴れて日本語教師としてロシア美女の爆乳が揺れる教室で教鞭をとる資格要件を満たした俺は、日本語学校の採用面接を受けることになった

今日はその採用面接で模擬授業をしたときのお話。

日本語学校での面接

俺はコピー機の訪問営業で馴染みとなった新宿の日本語学校に連絡すると、ちょうど教師募集中とのことで、面接を受けることになった。

俺は面接を受けるのは、いつぶりか考えてみた。就活以来だから約6年ぶりだ。

久々の面接だったが、俺は楽勝だろうと踏んでいた。というのも、営業マンとして奮闘したこの5年間、あらゆる業種のビジネスマン相手に商談を交わしてきた経験が俺にはあったからだ。

俺

楽勝っしょ。ま、志望動機と前職の略歴くらいは、頭ん中に用意しとくかな。

次の日、面接を受けに日本語学校へ行くと、営業で顔見知りになったいつもにこやかな女性スタッフが対応してくれた。

こちらの教室でお待ちください。

通されたのは、日本語の授業をする教室だった。ついさっきまで授業をしていたのか、教室内にはまだ熱気が残っていた。

俺

なんか臭えな。

外国人のエキゾチズムが発する色んな匂いが混ざり合ってなのか、はっきり言って臭かった。どこかしら部室の臭いにも似てる気がした。でも、この匂いの一部に、ロシア爆乳美女の甘い香りが含まれていると想像すると、少しだけ救われた気がした。

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お待たせしました。

面接官は、いつものにこやかな女性スタッフと、仙人のような風貌のじいさんの2名だった。

後に、この女性は教務主任で、仙人は校長だと知ることになるが、この面接の場ではただ、「ムダに愛想の良い女性スタッフ」と、どっからどう見ても怪しい「仙人のじいさん」という印象しかなかった。

仙人
仙人

えー、あなたは営業職をされてたようですが、どうして日本語教師になろうと思ったのですか?

愚問だ。俺の動機は何かって?決まってんだろ、爆乳の・・・

でも、本音と建前くらい俺だって使い分けられる。

俺

あ、はい。やっぱりこの地球に生きる人類はみんな兄弟だと思うんですよ。で、その人類愛を日本語教師として実践していこうと思いたったんです。世界平和のために。

仙人
仙人

どうしてそう思いたったんですか?何かきっかけとか、あったんですか?

俺

ええ、まあ、その、つまりですね、人は皆いつだって「ことば」に傷ついて、「ことば」に救われてるんだと思うんですよ。それを引き延ばして考えると、兄弟喧嘩や戦争も、愛や宗教も、全部同じだと思うんです。

仙人
仙人

はあ・・・、ふむふむ。

俺

だから、なんと言いますか、日本語を教えることを通して、外国人として日本で暮らす彼らに「ことば」を覚えて幸せになってもらいたいなと。それが巡り巡って、世界平和につながると信じてるんです。

仙人
仙人

すやすや。zzz…

仙人風の校長は、俺の話を聞きながら、すやすやと気持ちよさそうに居眠りしていた。

俺

自分が質問しといて、寝てんじゃねぇ。

仙人の居眠りはよくあることなのか知らんが、すかさず女性スタッフが質問を入れてきた。

高い志をお持ちなんですね。ところで、この日本語学校で教えはじめたら、どんな授業をしたいとお考えですか?

仙人
仙人

ああ、それを聞きたいですね。

俺はどんな授業をしたいのか、なんて考えたこともなかったし、今後考える予定すらなかった。そもそもこれまでの人生において、俺は自分が「どんなふうにしたいか」なんて考えたことがあっただろうか。

中学高校と野球漬けの日々を送り、なんとなく大学で政治経済を専攻して、なんとなくコピー機メーカーに就職して、なんとなく営業マンとしてのキャリアを積み上げてきた、ただそれだけの人生で、俺が一人の人間として、「何をどのようにしたいか」なんて、何も考えずに生きてきた。

俺

オリジナルの授業をしたいです。他の誰のコピーでもない、私にしかできない授業をしたいと考えています。

仙人
仙人

ほー。それでは、今からその授業をやっていただけますか?

仙人がまたふざけたこと言ってるぜ。このじいさん、実はちょっとボケてんじゃねえか。こんな誰もいないところで授業しろって、無茶振りもいいとこだぜ。

模擬授業です。

モギジュギョウ!? 何それ? 俺はなんだか悪い流れに傾いてるような気がした。なんとか強引にでも流れを俺のペースに引き戻さねば。

俺

はっはは。ぜひ私のオリジナルの授業を披露したいところですが、ここじゃ、さすがに無理でしょう。肝心の学生がいませんから。

大丈夫です。私たちが学生役になりますから。

俺はこの女性スタッフも頭がおかしいんじゃないかと思えてきた。この状況でどうやって授業をしろというのだ。しかもこの2名のいかれた面接官が学生役をするだと?

仙人
仙人

じゃあ、早速、始めましょうか。

仙人、てめえは黙って居眠りしてろよ。

特別なことじゃありませんよ。日本語学校の面接では、だいたい模擬授業をしていただいてから採用を決めるんです。そんなに負担に感じずに、いつもどおり気楽にやっていただければ大丈夫ですから。

この空気、覆せるような状況じゃなかった。女性スタッフも仙人も「素」で俺に模擬授業とやらを要求してきてる。俺は腹をくくり、この場で模擬授業をやるしかない状況だった。

仙人
仙人

お題はどうしますかね。

じゃあ、て形の導入と練習までを15分でやってもらいましょうか。

仙人
仙人

それはいいですね。じゃ、よろしくお願いします。

俺は完全に流れを持って行かれた。

「テケイ」って何だ?

無理難題を突きつけられ、頭をフル回転させるも、解決方法は何も浮かばないという、崖っぷちの状況にいた。

俺

くそー、やべえぞ。「テケイ」って一体なんなんだ・・・。

後ろにあるホワイトボードと、その横のボックスにある絵カードを使っていただいて構いませんので、どうぞ。

俺

あ、あの、すみませんが、「テケイ」ってあれですよね。あのこと言ってますよね?

俺は苦し紛れに場をつないだ。

ええ、そうです。動詞の活用のて形です。最近はte formと言う人もいて、用語のバリエーションが増えてきて、ややこしいですよね。

俺はフリーズ一歩手前の頭をフル回転させ、この死に体の状況から起死回生を図ろうとしていた。

俺

テケイは動詞の活用とか言ってたな。動詞の活用ってよ、未然・連用・終止・連体・仮定・命令とかだろ。でも、テケイなんて聞いたことねぇぞ。

そのとき、俺はピンときた!

そうか、わかったぞ。そんな簡単なことだったのか。俺は自分がぎりぎりのところで踏ん張り、この状況を脱却するための道筋が見えたことに少し安堵した。

つまり、テケイとは仮定形の略語なのだろう。日本語教育では、「かていけい」を略して「テケイ」と呼んでいるのだ。

で、その導入と練習をやればいいわけだ。俺は、動詞の絵カードで提示して、その仮定形の活用練習を繰り返すことにした。

俺

なーんだ、たいしたことねえぜ。日本人なら誰でもできるぜ。

俺は教材ボックスの中にあった絵カードを取り出し、学生役の二人に「食べる」の絵カードを提示した。

すると二人はまた寝ぼけた返しをしてきよった。

食べます

俺

いやいやいや。テケイだよ、テケイ。さあ、みんな!これをテケイで言ってみよー!

仙人
仙人

たべ、たべま・・・たべ・・・

だめだ。このじいさんは完全にボケてる。相手にしない方がいい。

俺は女性スタッフに、「飲む」絵カードを提示した。

のみ、のみま・・・のみ・・・

だめだ。この女性スタッフもボケ仙人と同じリアクションじゃねえか。この二人、正気なのか?

俺

この絵カードは「飲む」です。この動詞のテケイは、「飲めば」です。

その瞬間、仙人と女性スタッフが顔を見合わせた。

俺はその瞬間、流れを自分のペースに持っていけたことを確信した。そして、畳みかけた。

俺

はい、では次の絵カードは「見る」です。この動詞のテケイは、「見れば」です。一緒に言ってみよー!「見れば!!」これがテケイです。忘れないでねー!

俺は調子づいて、「見る」の次は「聞く」、その次は「書く」と、次々と同じ要領で繰り返していった。

そして、ついにぶっこまれた。

はい、ありがとうございました!終了です!

女性スタッフがやけに苛立っていた。持ち時間の15分を少し超過したからだろうか。あるいは、俺のあまりにも完璧でスムーズな「テケイ」の授業に嫉妬しているのだろうか。

その一方で、仙人は穏やかに言った。

仙人
仙人

模擬授業、ありがとうございました。この模擬授業のフィードバックはまた今度いたしますね。最後に、何か質問があれば、何でもおっしゃってください。

俺はずっと気になっていることがあった。ただ、それを聞いちゃあ、身も蓋もないような気がして、聞くべきかどうか迷っていた。でも、仙人がなんでも聞いてくれと言うので、ここはひとつ率直に聞いてみようと思った。

俺

この学校にロシア人って何人くらいいるんですか?

ロシア人ですか。今は一人もいませんよ。

ふざけんじゃねーぞ!こらあ!てめえの日本語学校は「いるいる詐欺集団」かよ!

俺

え、でも、以前ここにあの白人の…

あー、ナターシャさんですね。彼女は夏休みのインテンシブコースに参加してたんです。もうとっくに帰国しましたよ。2週間で日本語もだいぶ上達しましたよ。

撃沈。

俺はシャラポア似のロシア人が一人もいないことに思考停止しそうになった。

あの爆乳美女は帰国済みですか。そうですか、そうですか。わかりましたよ。いや、いいんです。俺は別にロシアとかスラブ系が好みなわけじゃないんです。爆乳なら国籍は問いませんよ。

すると仙人が感心したように話しはじめた。

仙人
仙人

あなたは、ちょっと見かけただけの学生のことを心配できる人なんですね。最近の先生は皆さんサラリーマンっぽくなってるのに対し、あなたのような人類愛を本気で体現してる人はこの時代珍しいです。

この仙人が完全に誤解していることは明らかだったが、俺はとりあえずこの誤解に便乗しておくことにした。

仙人
仙人

だいたい皆さん、時給のことを最後に質問しますが、あなたは学習者のことを質問するとは、とても感心します。人類愛や世界平和もあなたは本気で考えていることがわかりました。私はあなたと一緒に仕事がしたいと思います。2月からこの学校でぜひ働いていただきたいです。詳しいシフトはまた事務連絡のメールをお送りします。今日はどうもありがとうございました。来月から、どうぞよろしくお願いします。

こ、校長先生、ほ、本当にいいんですか。一度内部で検討した方が・・・。

仙人
仙人

いいんです。採用です。

そんなこんなで、俺は的外れな「テケイ」の模擬授業を実施したにも拘らず、強運で採用に至り、翌月から日本語教師としてその日本語学校に勤務することになった。

しかし、ここからが俺の波乱万丈の日本語教師としての奮闘記となる。日本語学校がこんな闇をかかえた業界だと想像もしていなかった俺だが、その後、嫌というほどにブラックな事件に直面することになる。

次回は俺が日本語学校で初めて日本語の授業をするお話です。

< つづく ↓ >

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