全4回で、インドネシア人の元技能実習生アリフさんのライフストーリー を紹介しました。
彼の体験談から、インドネシア人技能実習生の受け入れは、
「どうすればうまくいくか」を考えてみたいと思います。
まず、結論として重要なポイントをご紹介します。
- 技能実習生のチャレンジ精神をへし折らない
- ホームシックの根底にある人恋しさを理解してあげる
- 宗教への強い想いをリスペクトしてあげる
- インドネシア人同士の人間関係に配慮する
- スポーツできる環境を用意する
- 日本語の学習機会を提供しよう
- 日本人の「友達社員」ができれば安泰
- 技能実習生の帰国後も視野にいれる
チャレンジ精神を折らせない
技能実習生はみんなチャレンジ精神を胸に来日します。アリフさんのように大学を中退したり、あるいは親戚中からお金を集めたり、いろんなケースがあります。
そうです、彼らはみんな、リスクを背負って来日します。
そして、そのリスクを根底で支えるのは、彼らのチャレンジ精神なのです。
外国に行くことはきっといい経験になると思ったし、お金の面でも給料のいい日本で働きたいと思った。でも何よりも、何か新しいことにチャレンジしてみたいと思ったんです。
この2つ(彼らのリスクとチャレンジ精神)を受入企業側がちゃんと理解しないと、技能実習生の受け入れはうまくいかないでしょう。
ですので、彼らの「頑張ろう」という意欲、そう、モチベーションですね、それをいかに高めてあげられるか、受け入れ企業は、常にそのことを気にとめておきましょう。
逆に、彼らのモチベーションをコントロールできるようになれば、人間関係や業務態度、日本語学習や私生活など、すべてが良い方向に向かうことでしょう。
家族や宗教への強い想いをリスペクトしてあげる
○インドネシア人は、家族や地元との結びつきが強いです。
○また、多くのインドネシア人はムスリム(イスラム教徒)です。
この2つは、インドネシア人を技能実習生として受け入れるにあたって、非常に重要なファクターです。
しかし、だからといって、彼らにインドネシアにいるときと同じような暮らしをさせるなんて、できるはずがありません。家族とも離れていますし、日本はムスリム国家でもありませんしね。
受け入れ側に必要なことは、彼らのリクエストに応えるのではなく、その想いの根底にあるものを尊重してあげることです。
それは具体的にどういうことか、ご説明します。
ホームシックへの対処
家族と会えないで寂しい、というのは、単に「家族に会いたい」という想いだけでなく、根底には、人恋しいという想いがあるはずです。
であれば、受入企業側の日本人や地域のボランティアを通じて、触れ合う機会を意図的につくりましょう。人との絆を育み、人との関係性の中に生きていることを実感させてあげられれば、きっとホームシックも解消するでしょう。
断食月に断食ができないことは、もちろん苦痛でした。でも、それよりも、断食明けのレバランというお祭りで、母国にいる家族たちがみんなで集まってお祝いをしている知らせを聞いたときは、一人異国の地に取り残されたような気持ちになり、ホームシックになりました。
イスラム教を尊重する姿勢を示しつづける
次に宗教の問題ですね。イスラム教は1日5回のお祈りや、金曜の礼拝は重要だったり、あとは、断食(レバラン)や豚肉NGなど、日本では馴染みのない戒律が多くあります。
この問題についても、すべてを解決してやることなど不可能です。仕事もある中で、1日に5回もお祈りや断食ができないかもしれませんし、食事だってガチガチのハラル対応の料理や食材を常に用意することもできないでしょう。
宗教については、理解を示す姿勢が大切です。お祈りや断食が十分にできる環境になかったとしても、「あなたのイスラム教という宗教を私たちはリスペクトしていますよ」という姿勢が重要で、その姿勢を何らかのかたちで示しつづけることが大切です。
そうすれば、彼らは、インドネシアにいるときのように宗教の戒律を守れなくなったとしても、不平不満を言ったり、打ちひしがれたりすることはないでしょう。もし彼らがネガティブな感情になるとしたら、それは「受け入れ企業が自分たちの宗教を尊重していない」と思っているからで、決してやりたいことができないから怒っているわけではありません。
センターの食堂のおばさんたちは、断食のための早朝ご飯を用意してくれたんです。あれは嬉しかったなあ。
インドネシア人同士の人間関係に配慮する
意外と見落としがちなのが、インドネシア人同士の人間関係です。
日本での生活や実習業務をスムーズに行うには、どうしても日本人の上司や同僚との人間関係に目がいきがちですが、
インドネシア人同士の人間関係は、それ以上にセンシティブで重要な問題です。インドネシア人同士の人間関係がうまくいっている場合は、多少日本人との軋轢があっても、健康的に過ごせるものです。
でも今から思えば、技能実習生としての日本での3年間の生活は、もちろん日本人や日本文化とうまくやらなければいけない部分も多いとは思いますが、同じインドネシア人と助け合い、協力し合えるかどうかも非常に重要なことだと思うんです。僕たちはその点では、とてもうまくやっていました。
ですので、インドネシア人同士が仲良くなるよう、環境を整えて支えてあげましょう。部屋割りなんかもよく考えた方がいいでしょう。
コミュニケーション能力が高く、協調性のあるインドネシア人の多くは、みんなで仲良くやりますが、ひとつだけ気をつけなければならないことがあります。
それは、民族です。
インドネシアという国は、多くの島から成り、そして多くの民族から成り立っています。むしろ、イスラム教よりも、民族としてのアイデンティティの方が強いのではないかと思うくらいです。
本当に色々な民族があって、その違いで仲違いが起きないことを願うばかりです。これはもう、受入企業がどうのこうのと対処できる範囲ではないかもしれませんが、そのことを知っておくことは重要なことです。
スポーツできる環境を用意
スポーツが好きな人なら分かると思いますが、スポーツっていいもんですよね。
いろんなストレスや精神的な疲れも、スポーツをすることで、リフレッシュできますよね。
インドネシア人の技能実習生はまだ若い青年たちですので、暴れたい盛りです。
ですので、スポーツで発散できる環境を用意してあげましょう。
インドネシア人は、フットサルも好きですが、国技はバドミントンです。日本でバドミントンはマイナースポーツですが、インドネシア人はみんな好きで、上手ですよ。
バドミントンなら地域の小学校の体育館などを借りてできますし、日本人との交流にはうってつけです。
この「体育館でバドミントンができる環境を用意する」ことは、何よりも重要かもしれません。
日本語の学習機会を提供しよう
なんだかんだ言っても、やっぱり「日本語」ですよね。
これは、向き不向きもあるので、すべての技能実習生に同じレベルの日本語力を求めるのはやめましょう。
ただ、技能実習生に対して、誰か頼れる「先生社員」をつけるのは、有効な手段です。
仕事の空き時間に自分で買った問題集でコツコツと勉強してました。合格したことも嬉しかったですが、社員の先生が自分のことのように喜んでくれたことが何よりも嬉しかった。
日本語の先生役は、単に日本語を教えるだけの存在ではなく、技能実習生の心の支えになってくれることでしょう。何か困ったことがあっても、「あの先生がいるから大丈夫」と思わせることで、それだけで技能実習生の心の安定につながのです。
日本人の「友達社員」ができれば安泰
日本人との関係は、先輩や指導員、同僚、などの「仕事」としての付き合いになることが多いですが、
その中で、仲の良い日本人の「友達社員」ができれば、もうそれだけですべてが上手くいくことでしょう。
日本語もすこぶる上達するだろうし、仕事もどんどん覚えるだろうし、他の日本人ともどんどん良い関係を築いていくことでしょう。
帰国の時、同じ工場でよく面倒を見てくれた日本人の先輩との別れは、本当に辛いものでした。その先輩は、車でスキーに連れてってくれたこともあったし、彼の結婚式にも呼んでくれたんです。
ただ、同じようで同じでないのが、「恋人」の存在です。
恋人をつくった技能実習生は、めきめき日本語を上達させるでしょうけど、仕事が手につかなくなったり、悪い女に騙されたり、フラれたり、休みがちになったりなど、お相手の女性次第で、よくもわるくもなるでしょう。
いい女性なら、本当に最高なのですけどね。この女性と結婚するために、頑張るぞ!とモチベーションが高まれば、放っておいても真面目に仕事をするでしょうしね。
これはもう、付き合うなら、いいオンナと付き合え、ということでしょうか。
技能実習生の帰国後も視野にいれる
技能実習生はいつかは帰国します。ずっと日本にはいられません。
最後に、彼らの帰国後についても考えてみましょう。
多くの技能実習生は、若くして日本での生活や就労経験を通して多くを学びます。
帰国後、日本で学んだ技術を生かして、彼らが活躍すればいいですよね。
ただ、多くの技能実習生は、よくもわるくも日本に「染まり」、
帰国後、自分の国を批判するようになります。
“インドネシアは変な国”とか、”インドネシア人は頭が変”、などと言う元技能実習生も多いです。
それは、大変だった自分たちの3年間を、価値づけしようとする心理からくるのでしょう。
日本で虐げられ、心の奥底に傷を負った技能実習生たち。
その傷を癒すには、自国を一段下に見下し、自身の優位性を相対的に獲得することで、
日本>自分>母国、というような図式に自分を組み込んで、傷を癒すのです。
日本での経験を誇りに思い、自信を持つことは大切ですが、それを母国への優越感にすり替えることは、本人にとっても、その家族や友人にとってもメリットはゼロです。
受入企業にできることは、彼らが日本にいる間、彼らの国インドネシアを褒めてあげることです。
インドネシアには行ったことがなくても、多くのインドネシア人の技能実習生をじかに見てきたでしょうから、インドネシア人の良いところは多く知ってるはずですよね。それを伝えてあげてください。また、インドネシアという国に興味を持って、色々と質問して関心を示してください。
そうすることで、技能実習生は、日本と自分と母国を優劣で見るような視点を持たなくなり、日本も母国もそれぞれに愛する心を持つことでしょう。
日本からインドネシアに帰国して数日間は、どうしてインドネシアはこんなに臭いんだろうと思いました。ゴミが本当に多いし、どこに行っても人で溢れているんです。でもね、ここが僕の故郷。それを忘れるようなら、日本に行った意味なんてないんだと思う。
まとめ
以上、インドネシア人技能実習生を受け入れるにあたって、どうすれば上手くいくかをまとめてみました。
重要ポイントのまとめを再掲しますので、インドネシア人技能実習生の受け入れに、少しでもお役に立てば幸いです。
- 技能実習生のチャレンジ精神をへし折らない
- ホームシックの根底にある人恋しさを理解してあげる
- 宗教への強い想いをリスペクトしてあげる
- インドネシア人同士の人間関係に配慮する
- スポーツできる環境を用意する
- 日本語の学習機会を提供しよう
- 日本人の「友達社員」ができれば安泰
- 技能実習生の帰国後も視野にいれる
以上です。
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